5 NZパック旅行

 コロナ騒ぎのせいで3年間ご無沙汰していた弟が、2023年の正月に久しぶりに我が家を訪れた。うちはNZ南島のクライストチャーチ(のすぐそば)にあって、弟は何度も来ているから今さら市内観光の必要などない。もしかしたら本人は一度くらい街の中心部を見たいと思っていたのかもしれないけれど、特に一言もなかったので割愛した。来ている間に行ったのはハンマースプリングスの温泉プールと、アシュバートン(70キロ南方)の公園でのピクニックの2回。あとは主に近所の公園で姪っ子がローラースケートの練習をするのを追っかけるくらいで、これといって特別なことは何もしていない。

 これは今回の日程で、前回までは車で3時間程度のどこかに行って、みんなで1泊旅行をしていた。大体1週間の日程でうちに滞在するうち、遠出は2日だから今回と内容において大差ないといってよい。うちでないところに宿泊する楽しさはあったろうが、弟にしてみればうちも外国にあるので、面々は一緒だし、たいして違いはないように思う。

 

 その弟が、今回とある旅行社の海外旅行パンフレットを持ってきた。そのなかにホンの少しだけNZ旅行もあって、その日程は伝統的かつ典型的なNZパック旅行、小生の知る限りほかの旅行社とおおむね同じである。詳細を見てみよう。

 

1日目 成田出発(夕方)

 

2日目 オークランド(Auckland)着、朝の9時前後。国内線に乗り継ぎ、14時15分クイーンズタウン(Queenstwon)着。その後疲れているからホテルに直行して一服したいところだが、なぜか少しだけクイーンズタウン市街とは逆方向に進んでアロータウン(Arrowtown)見学。アロータウンは幹線道路から外れたところにある小さないなか町、歴史もあって静かでいいトコなんだけれど、観光化されているから鋭いひとなら少し興ざめするかもしれません。そしてやっとホテルに行って休憩できます。とはいえ、荷物を解いてやれやれ、といってる間にまたみんなで集まってロープウェーで山を登り、景色が最高にいいレストランで晩メシ。

 

3日目 朝メシもそこそこにミルフォードサウンド(Milford Sound)に向けて出発。ざっくり言って9月から3月までの日本との時差は4時間、つまり朝8時に出発だとすると、おとといまでなら朝の4時、結構キツそうである。距離は300キロ弱だから、自分の車でブッ飛ばせば3時間半から4時間、観光バスだと5時間はかかるかしら。いかにもNZという車窓が続くけれど、バスの中で寝てしまうかもしれませんね。ミルフォードはフィヨルドだから切り立つ山が両側に迫り、すごい迫力、これぞ海外旅行の醍醐味。残念なのは帰りも行きと同じだけバスに乗らなければならないので、往復で9~10時間を費やしてしまう。お気付きかとは思うけれど、NZ随一の観光地であるクイーンズタウンに宿泊していながら、そこで遊んでいない。

 

4日目 本日は朝からまた移動、マウントクック(Mt Cook)に向かいます。途中で果樹園等に寄り、しかも結構キツめの峠を越えるので、到着までに5時間以上かかるでしょう。しかし、到着したらついに待ちに待った自由時間。晴れてさえいれば景色はすごいゼ。

 

5日目 朝クライストチャーチに向けて出発。本日も途中テカポ湖(Tekapo)に立ち寄るので、クライストチャーチに着くまで6時間を切ることはないと思う。到着したら市内観光がてら「紙の聖堂」を見る、と書いてある。これは2011年の地震で倒壊した大聖堂の代わりに別の場所に建てられた簡易建造物で、躯体に紙(段ボールのことならん)を使用しているからそう呼ばれている。日本人バンシゲルなる御仁がデザインした。しかしですね、クライストチャーチに住んでいる小生としては、代替品を見る時間があるなら、損壊した大聖堂をこそ見てほしい。ここで地震があったのは東日本大震災と同じ年で、日本人も結構な人数が犠牲になった。同じ年に起きた地震だから、壊れた大聖堂を見て、東北地方に思いを馳せることもできよう。

 

6日目 手元にあるパンフレットには「朝~昼 クライストチャーチ発オークランドへ」となっているけれど、飛行機の時間は記載されていない。もし昼頃の便で、それまで自由時間なら少し市内で遊べるかな?オークランドに着いたら「ハーバーブリッジからオークランドの街並みをお楽しみいただける」、つまり空港から街の中心部を通り過ぎてハーバーブリッジを渡り、ホテルは街中だからUターンして戻ってくる。しかしながらこの日は朝クライストチャーチでか、午後オークランドでかで多少時間に余裕がありそうなので、ぜひブラブラしたい。

 

7日目 朝ワイトモへ向け出発。有名なワイトモ・ケイブ(Waitomo Cave)という洞窟でツチボタル(ヒカリキノコバエ)を見る。まったくもって蛍ではないが、光ってるから蛍みたいに見えなくもない。オークランドからワイトモまでは約3時間。そこから今度はロトルア(Rotorua、バスで2時間)に向かい、昼メシと観光。ここまで消化しておそらく出発から7時間、オークランドに帰るのは早くて夕方6時ごろかな。

 

8日目 朝9~10時ごろ離陸の直行便で帰国。

 

 長い休みを取りづらい日本人に、とにかく短時間でなるべくたくさんの場所に案内することでNZを満喫してほしい、という日程である。ざっと計算したらバスでの移動は30時間ほどあるようだから、1日の行程が10時間だとすると丸3日バスに乗っていることになる。NZ国内にいるのは6日間だから、行動している時間の半分はバスの車中である。ヒドいようにもみえるけれど、バスから見える景色、特に牧場の続く景色こそNZらしい。そこに山あり、川あり、湖あり、北島と南島では植生も違う。あまり変わり映えしないから眠くもなるが、運転しなければならない身分でないので、眠くなったら寝ちゃう自由もある。

 

 この日程を個人旅行として消化することは不可能である。居眠り運転で事故を起こすこと必至、NZの高速道路の制限速度は100キロだから、高い確率で死にます。美しいNZの風景も、それが変わらずに続くと眠気を催す。この辺、経験から申し上げております。詰め込みすぎという感じは否めないが、パック旅行だから実現可能なのである。これは大きなメリットだといえよう。

 

 手元にある旅行会社のプランは、出国から帰国までの全行程ガイドさんが案内するようなので、海外旅行でいちばんオソロしい外国語の心配はないといってよろしい。NZ航空の場合、成田で飛行機に乗った瞬間から英語環境になることが珍しくない。自分の席を担当するCAさんが日本人かNZ人かによるけれど、ガイドさんがいるならどっちだっていいよね。税関の申請書類の記入や荷物検査だって何の問題もない。NZ到着後に現地在住日本人のガイドさんと合流というパックもあるから、そこまでの行程はなんとか自分で切り拓かねばならない場合もある。しかし、それはそれ、普段は使わないボディ・ランゲージを余すことなく駆使し、オレンジジュースを頼んだらコーラを渡されたのような失敗も後になってみれば楽しい海外旅行のひとコマ。

 

 とここまで随所にニオわせたからお気付きの諸賢も多かろうと察するが、小生はパック旅行なるものに否定的である。ガイドさんがいて心配のない旅行では、海外では特に、出会うべきモノに出会えない。

 パック旅行で接触するほぼすべてのNZ人は観光業界のひとなので、全員絵に描いたような善人であるから、「NZは美しく、人も親切ですばらしい国だ」との安易な感想を持たれそうである。それは大体において正解である。しかし、一歩普通に街へ立ち入ればたちどころに悪者に取り囲まれてカツアゲされる、というようなことは起こりそうにないにせよ、本当のNZはその安心のバリアの外にある。

 そこで、次回はNZ個人旅行を考察したい。

 

 2023年1月 擱筆