ニュージーランド(以下NZ)の英語は聞き取りやすいと思う。イギリスとアメリカの英語を二大宗派とすると、NZ英語はイギリスのほうに近い。そもそもNZに入植してきたのはイギリス人なんだからあたりまえである。ただし、英国人はNZ英語のアクセントをバカにしているフシがある。オーストラリアもNZと似た歴史背景を持ち、小生には似ていると思えるこの二国の英語、実際にはお互いに「似てるわけねぇだろ」と犬猿の仲である。オーストラリア曰く「NZなんて地の果てのイナカ、英語だってイナカくさいぜ」。NZ曰く「オーストラリアはイギリスの犯罪者の流刑地だったんだろ。そいつらのダメ英語由来ヨ」。
このオセアニアの二国は、庶民のレベルでは事あるごとにいがみ合っているので、もし似ていたとしても「違う」と譲らないだろう。いずれにせよ厳密な両者の違いはしがない移民の小生の手に余る問題なので、語れません。
それではNZの英語を掘り下げてまいりましょう。
アメリカの映画等で聞く「Hey buddy」のバディ、NZでも言う人がいるけれど、圧倒的に多いのは「mate」である。使いかたはバディと同じで、あいさつの後、文章末尾におまけのように付く。例えばその日一発目のあいさつ「Good day mate」。日本語に訳すとすれば「よう」としかいいようがなく、mateの部分に意味なんかない。「Hey buddy」だって訳せば「よう」なんだから同じである。「Good day」もオセアニアならではらしいが、イギリスでも言うのかしら。これは「ハロー」よりくだけた言いかたで、生徒が先生にあいさつするときはやめておいたほうがよろしい。とはいえ、一般的に銀行窓口のおねえさんやかかりつけのお医者さんに言うのは差し支えない。そういえば「day」もよくその発音が話題になる単語で、阿川弘之や宮脇俊三が、オーストラリアでは「ダイ」と発音すると書いている。オーストラリアの生の「ダイ」を聞いたことがないのは痛恨だが、NZでは「ダイ」と発音する人は、絶対いないとは申しかねるが、かなり少数だと思う。ただし、人により「mate」の発音が「メイト」と「マイト」の中間くらいのことはある。
次は「aye」。これはフシギな言葉で、一応オックスフォードの辞書には載っているが、NZのそれと合致するかどうか微妙な説明であった。NZでは大人の男性同士が話すときに多用され、サバケた感じの女性も使う。ちなみに、強い言葉ではない。
「Hey mate, finally beautiful summer day aye」
「Oh yeah aye」
あえて説明すれば付加疑問文の末尾みたいなもので、ひとつ目の「aye」は「isn’t it」、ふたつ目は「it is」と言い換えられる。けれど、江戸ッ子のような気質を持つNZ人はそんなシチ面倒くさい決まり事など眼中にない。肯定文?否定文?シャラくせぇ、「aye」ならどっちもカバーするじゃないの。
使う頻度はひとによって様々で、もうなにを言うにもエイエイの御仁もいれば、それなりのひともいる。イギリスのテレビ番組の司会者が使っていたのを聞いたことがあるので、おそらくオーストラリアでも使っていると思う。あまりに日常過ぎて、こういう機会でもなければあらためて考えることなどないようなことである。
と、ここまではNZで放送されているヨソの国のテレビ番組でもチラホラ聞くような言葉で、アメリカでは通じないかもしれないけれど、イギリス文化圏なら通じそうなものである。それでは、もう少し品下れる表現とまいりましょう。
「よい」を表す「Good」、この意味で使う単語は非常に多彩だ。その中でひときわ異彩を放つのが「Mint」「Choice」「Sweet」「Cool」「Mean」「Sick」の6つである。Mintに関しては、なぜそう言うのか聞いてみたことがある。
「おい、ミントってなんだ?」
「ミント?ミントっつったらおまえ、あの歯磨きとかの・・」
「違う違う、なんでおまえはGoodの意味でミントと言うのだ?」
「・・・・、考えたこともない」
これはまあ、意識しないで使っていることだろうから、明確な答えを得られなかったのは仕方のないことだろう。Coolはヨソの国でも聞きそうだけれど、ChoiceやMeanはどうなんだろう。Choiceは文章の中に入っているより、「Choice」と一言で言い切る場面で使われる。Meanは「意味する」の動詞、「ケチな」もしくは「イヤな」の形容詞が一般的で、これを形容詞として考える場合、なぜに反対の意味で使うことがあるのかフシギである。人を形容する場合は「イヤな野郎」の場合が多く、状態を表す場合は「大変よい」の意味で使うことが多い、ような気がする。Sickもまた然り、大抵の場合「見ろよあの車、すげえsickじゃん」のように使うので、文脈で判断できるから混乱は起こらない。そして、これらに限らず形容詞全般のあとに「as」が付くのがまさにNZ英語の真骨頂である。
国際空港のオミヤゲ屋に売っているものの中には羊、シダ、マヌカ(花)、ファンテール(鳥)、キウイ(鳥または果物)、オールブラックスとNZを代表するもののデザインがあふれている。その中に「Sweet as」と書かれたマグカップやパーカーがある。ということは、これはおそらくNZ固有の言い回しなのだろう。「Sweet」と「Sweet as」の間に、その意味において違いは全くない。形容詞に付くと上に申し上げた通り、Good as、Terrible as、Sexy asとなんにでも付く。慣れると「as」なしではなにかが足りないような気もしないではない。ただし、「He is a good as guy」のようにasのうしろに名詞がくることはない。
また、名詞のうしろに「y」を付けて無理やり形容詞を作ってしまうのも、もしかするとNZ英語だけの特徴かもしれない。聞いて驚いたのは「Christmasy」と「Chocolaty」の2語である。あえて訳すなら前者は「クリスマスらしい」もしくは「クリスマスぽい」、後者は「チョコの風味にあふれた」といった感じ。これらも江戸ッ子の横着精神のたまものではないかとニラんでいる。とにかく名詞の後に「y」を足すだけで形容詞に変えることができるのだから、なかなかにすばらしい発明といえよう。しかし、「Child(こども)」「Childish(こどもっぽい)」のように最初から派生語がある場合は、「Childy」のようなムリな言いかたをしないようだ。この類の語で、小生が出会った最高傑作は以下である。
We wouldn’t say “fxxx” when we order something at a shop you know, we’re polite as, like when I’m in KFC, but like, I’d say it when I complain about something in the same shop, like ‘Hey, this fxxxin Chicken burger is not fxxxin chickeny enough !’.
これは「F」で始まる例の悪い言葉に関しての心得を小生に説いた御仁の仰せで、細部はアヤシイが、だいたいこんな内容であった。それにしても「Chickeny」とは、このとき以外にほかで接したことがない。もしかすると咄嗟の造語かもしれない。アホらしいから和訳しないけど、なんとなく言うてることは判るじゃないの。
「F」について触れたので少しNZスラングについても書いておきましょう。スラングといっても以下は「NZ独特の言いかた」くらいの言葉です。「Cuz(発音はカァズくらい)」はmateと同じ意味で同じ使いかた、「Togs」は水着、「Chilly bin」はクーラーボックス、「Dairy」はコンビニ。これらは女子やこどもが口にしてもまったく問題ない単語で、例えばお店で売っているクーラーボックスに「Chilly bin 何ドル」と値札が付いていても誰も眉をしかめたりしない。
強いスラングはといえば、例えば『Die Hard』でブルース・ウィリスがしきりに言っていた「Son of a bitch」、小生はNZで一度も聞いたことがない。アメリカのスラングかと思わないでもないが、思い出したことがある。その昔『悪童日記』という本を読んだことがあり、その中に「淫売の子め!」という表記がよくでてきた。文脈から罵っているだろうことは理解できる。原文はフランス語らしく、とすると、フランスにも同様の表現があるのかもしれない。いずれにせよ「淫売の子め」はないよね。でも「このクソガキが」にすると誤訳になっちゃうのかな?ちなみにNZでこれに代わる表現はというと、「Fuck you」、「You mother fucker」(この「You」はあってもなくても)らへんでしょう。
「Bull shit」もよく使うスラングです。悪い意味で使うこともあれば、語尾を下げるふつうの発音で「Really?」くらいの意味で使うこともある便利な表現ですな。
このほか、「Piss」は通常おしっこを表すスラングなのに、ビールの意味で使われることも多い。雨を指すこともある。「Pissed」だとイヤなことされて怒っている、もしくは酔っぱらったという意味もある。「Shit yeah」の「Shit」はうんこの意味なのに、この場合なぜか「そうだよね~」くらいの賛同の意を表す。「Dick head」は直訳すればチンコ頭だけど、「分からず屋」をウンと強く言う表現であったりして、いちいち書き出していたらキリがない。
上記非常に強そうに聞こえる表現はなにも悪意に満ちた会話だけに使用されるわけではなく、仲の良いオトナ同士の和気アイアイとした会話でもふつうに登場することを追記しておきたい。また、「Son of a bitch」以外の強いスラングは、NZ独特の表現ではないかもしれない。
つらつらとここまで追ってはみたものの、小生は英語のエキスパートではないので、いかなる責任もとりません。そもそもNZ以外の国に住んだことないもの。ただし、NZに来てクリスマシーと言えば通じるし、スイート・アズと実際に言う人はそこいら中にいる。どうしても生で強いスラングを聞いてみたい、という奇特な人あらば、職人さんと友だちになることをおススメします。日本NZ問わず、職人さんの言葉は荒いから、きっと目標は達成できることでしょう。人相は悪くても、いいひとが多いですヨ。
2026年1月 擱筆