先日ハイ・カントリーに釣りに行ったときのことを書きたい。今までは「随筆を書く」、ということを念頭に置いて、それを実現すべく頭をヒネったのだが、今回は例えるならば若いころの原田宗典のエッセーを読むようなつもりで読まれたい。
さて、ハイ・カントリーとは日本ふうにいえば里山だけれど、いわゆる「田園風景」からはほど遠く、山のなかを流れる川だと思って間違いないです。ふつうの河川は10月イッピに解禁になるところ、ハイ・カントリーは11月の第1土曜が解禁日と決まっている。これは小河川だから魚族保存のためだとばかり思っていたところ、雪代による影響が少なくなるのを待ってのことらしい。ま、そんなことはどうでもよろしい。
小生がハイ・カントリーに行くのは11月第2週のどこかと相場が決まっており、それは土日はムスメ共の世話で時間を取れないといった事情による。もちろんむかし身軽だったころは解禁日の一番乗りを目指して金曜夜から前のめりであった。で、今年も解禁した次の週の木曜に行った。一番乗りを目指さねばならないのはなにも解禁日に限ったことではなく、よって小生は1時15分に起きて、2時にうちを出た。うちを出て5分も走るともう外は真っ暗で、前後に車なく、対向車もまばら、川に到着するまでの3時間以上の間に見たであろう動く車の数は100台に満たない。オマケに今年は途中で濃い霧がでて、制限時速の100キロなど思いもよらず、80キロで走るのがやっと。ふつうは真っ暗でもカーブの具合とかでどこを走っているのかの見当がつくんだけれど、この前はいったいどのへんを走ってるんだかさっぱり判んない。トシをとって判断も遅くなり、釣りでなかったら夜明けを待ったかもしれない。そのくらい運転しづらかったねぇ。
それでも車を走らせてさえいれば目的地には着くもので、いつもの場所に一番乗りできた。明るくなるまで少し待って、いざ。
入渓するとすぐに深い淵があって、そこで最初の1匹が釣れたこともあるけれど、そこに魚は見えず、登り始めるとその淵に流れ込むところに最初の1匹を発見。早めのザラ瀬で深さは60センチくらいか。距離はせいぜい5メートル。底にベタッと張り付いてるわけでもなさそうなので、#16のビーズヘッドを流すと、2投目できた。インジケーターを付けてはいたけれど、フライを食ったのが見えたので、インジケーターが動くより前にあわせちゃったヨ。入渓から5分で最初の1匹を仕留めたんだからこりゃ幸先いいワイと思っていたのに、そのあとなかなか釣れなくて、次は1時間以上経ってから。2匹目からは基本的に深い淵の深いところでヒラヒラしているか、やたらに流れがややこしい瀬にいるかで、インジケーターを付けているとうまくフライが沈んでくれないから、なしで、しかもスプリット・ショット(0.4g)を付けて、という仕掛け。2匹目を釣って、場所を変えるべく車に戻り、ついでにいつもは素通りするすぐ下流をなんの気なしにチェックしてみると、50メートルはあるだろう距離でヒラヒラしてる魚が見えるじゃないか。ヒラヒラしているのは採餌している証拠だから、テキはやる気マンマン、どうして素通りできようぞ。
こっそり近づきテキの左後方10メートル地点にて準備完了。流れにシワはなく、変わらず水面下30センチでヒラヒラ動いている。ライズしないところをみると、周囲の状況からカゲロウのニンフを食っているに違いない。なので「本日の当たりフライ」#16を投げる。着水音に反応するし、フライを見るし、多少追うものの、食ってはこない。何度か投げるうちに警戒されて少しテキが敏感になったような気がする。ここでフライを替えないとロクなことにならないのは経験からいって間違いないので、フライを替えることにする。さて、なにに替えよう。
いつもなら同じビーズヘッドで、色の違うワンサイズ小さいのに替えるところだけれど、あったかくなってきていて、「もしかしたら」という期待もあって、CDCイマージャー#18を付けてみた。1投目でいい場所に着水、途端にテキは反応し、少しづつフライめがけて浮き上がってくるではないか。小生の釣りの歴史の中でワン・オブ・ザ・ベストであったヨ(ストライク部門)。
その後場所を変えて、いつもなら2匹くらいはいるポイントに到着。そこは非常に流れが早く、淵というほどではないにせよ深さもあり、うっかり落こっちたらイノチに関わる程度に危険な箇所である。他にもっと居心地のよい場所はいくらでもあるはずなのに、なぜかそこを好む魚がいつもいる。流れは早くても水面はそんなに荒れてもいず、魚がどの深さで、どう動いているかはそれなりに見える。流れが早いからスプリット・ショットを付けていても魚のいる水深に流すためには4~5メートル上流に打ち込まねばばらず、フライがどのへんを流れているかについてはまったくもって、経験からなる勘である。もうすぐ魚の鼻先だろうと思っていても魚が動いてはくれず、ということの繰り返しの中、たまにその勘が的中、魚がヒラリと動いたら、おらがフライを食ったもんだと決めつけてあわせる。もちろん空振りも多いが、意外と魚は掛かるモンです。そんな感じで2匹追加し、その2匹目を水に返している間に、どうやら外したフライが水に入って、根掛かりしたようだ。スプリット・ショット付けてるから仕方ないよね。深いから手を突っ込んでも取れそうになく、糸が切れてもいいやと竿をあおると、なんと竿が折れた。ティペットは6ポンドで竿の強度をはるかに下回るはずなのに、折れた。おそらく折れた箇所に傷でもあったのだろう。
これがただ買った竿ならフトコロが痛むだけで済むんだけれど、折れた竿は自分で作ったやつなので、ハラが立つとか後悔するとかの前に、ちょっと恐慌をきたした。まず、竿を作るのは非常に面倒くさい。そして、古いタイプであるところのIM6を好んで使っているため、同じものが手に入るかどうか。おお、どうすりゃいいんだ。
とはいいつつ、目の前にはまだ3~4匹ヒラヒラしてるじゃないか。そこで小生は考えた。車に戻ればビニールテープがある。それで折れた箇所をグルグル巻きにすればこの場をしのげるかもしれん。ただ、車までの往復は少なく見積もっても40分はかかるだろう。気温は20度を超え、しかもネオプレーンのゴム長をはいている。やだな。ええい、こうなったらヤケクソだ、と折れてささくれだった竿を無理やりブッ差して、念には念を入れてエイエイと押し込んで、試しに投げてみた。意外といけそうで、なんと2投目で魚が動いた。あわせると掛かったみたい。おお、なんとかなるもんだと感心したのも束の間、魚は激しく泳ぎ下り始め、そして当然の結果としてヤッツケの竿の継ぎ目が抜けた。アレヨアレヨという間に竿の先っぽだけラインを伝ってスルスルと魚に向かって泳いでいくではないか。ああ、こりゃ無理だ。いくらなんでもこの魚はあげられまい。と諦めたにも拘らず、どういったカラクリか魚と竿の先っぽの両方の取り込みに成功、この魚がこの釣行の最後にして最大であった。まだ眼前には竿さえ無事なら釣れそうな魚が残っているけれど、アホみたいなやり取りの末に1匹モノしたんだから、とある意味達観してその日は予定より少し早めに帰路についた。
帰ってきてさっそく前にお世話になった釣具屋さんに連絡、ほどなくして「在庫アリ、ただし最後の1本」の返信があり、この際スペアも作っておこうと他の1本(2ピース)と合わせて竿1本半ぶん(ブランク3本)の購入予定である。
ちなみに小文の釣りとはフライフィッシング、魚は今回の場合ニジマス、舞台はニュージーランドのハイ・カントリーです。河川名は特に秘す。また、ところどころに釣りをしないヒトには判らんだろう単語があるけれど、説明するとダラダラとしちゃうからしませんでした。
2024年 11月 擱筆